高齢透析患者の特徴と注意事項

高齢者

はじめに

透析患者の平均年齢は、年々増加しています。2015年の透析医学会の統計調査によると透析患者の平均年齢は67.86歳となっています。私自身の感覚でも、透析患者が高齢化しているのを非常に実感します。

私が初めて透析室で働き始めた約10年前では、独歩で来られている患者さんが大半でした。現在では、車いすやストレッチャーなどで透析室に来院している患者さんが非常に増え、ベッド移動を手伝ったりなど介助をする機会が非常に多くなりました。

今回は、現在増加している高齢の透析患者さんに対して、何を注意して看護をすればいいのか?どのようなトラブルに注意しなければならないのかについて紹介します。

・透析患者の年齢分布
2015透析患者の年齢分布

(http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2016/p012.pdfより)

高齢透析患者の問題点

認知症

認知とは、自分の状況を適切に「認識、理解、判断」する総合的な精神の働きをいいます。認知症は、認知が適切にできなくなってしまう状態です。認知症の発症は、誰にでも起こる可能性が高く、身体活動の低下、社会関係の欠如、老化などによって引き起こされます。

透析患者の場合は、透析後は、脱水による低血圧や疲労・倦怠感により安静にしなければならなかったりなど、活動量が低下します。また、社会関係の役割の損失なども認知症発症のきっかけなどになります。会社の退職、配偶者の死による家族関係の喪失など、家族関係や社会とのつながりがなくなると認知症になりやすいです。

認知症の患者さんは、透析施設には何人か見受けられます。奇声を発したり、怒鳴ったりなど他の患者さんの迷惑となることがあります。また、最も危険なのは自己抜針です。なぜ透析をしているのか理解できない状況では、4時間以上、腕にチューブを接続してじっとしているのはかなりの苦痛になります。自己抜針の恐れがある場合は、監視を厳重にしたり、やむ得ない場合は抑制をしなければならない場合も出てきます。

認知症を予防するには、体が動くうちから定期的に運動したりなど筋力の保持に努めましょう。また、友人とのつながりを大切にしたり、訪問看護などを利用するのも有効かもしれません。

体が不自由

高齢になると、体の機能が低下して日常動作に問題が出てくる場合があります。体が動かせなくなる原因としては、筋力低下、視力低下、起立性低血圧、安定剤・精神薬などによる副作用などがあります。高齢の透析患者さんは転倒から骨折を起こしやすいです。下肢の骨を骨折した場合、入院中にさらに筋力低下がおこり、さらに歩行困難になります。

転倒予防としては、施設内の段差をなくす。透析液などで床が濡れた場合は、速やかにふき取る。などの注意が必要です。透析室内で転倒しやすい場所としては、体重測定時や、ベットから立ち上がる時にオーバーテーブルにつかまって転倒などが多いです。ベットの高さ調整したり、介助をしっかり行い転倒予防に努めなければなりません。

家庭内の環境整備も必要です。透析患者の転倒場所で最も多いのが自宅です。過ごす時間が一番長いので、家庭で転倒することが多いです。予防としては、家の中での段差をなくしたり、手すりを装着すること。薄暗い場所は、照明などを設置して明るくすることなどがあげられます。

自己管理が困難

透析をすることになると、水分管理、バスキュラーアクセス、栄養管理、服薬など多くのことを管理しなければなりません。高齢者になると認知能力の低下、長年の生活習慣によりこれらを管理することが困難になります。インスリンの注射を忘れたり、打ちすぎたりなど命にかかわることもあります。

食欲不振

透析後の疲労、血圧低下、加齢による味覚・嗅覚の低下、抑うつなど様々な理由で、食欲不振になることがあります。透析患者の食欲不振は、mia症候群につながり、生命予後を悪化させます。

加齢による食欲不振以外にも薬の副作用による吐き気などによる食欲不振もあります。リンの吸着薬などによる吐き気・便秘なども食欲不振の原因となりますので処方変更時は、特に注意して観察しましょう。また、体重増加量や、血液データなどを参考に早期に食欲不振に気づくことも大切です。

食事だけでエネルギー不足の場合は、ネオアミューなどアミノ酸製剤を透析中に投与したり、健康食品(食欲がないときの補助食品)などを摂取してエネルギーを確保しましょう。

透析患者がうつ病になるきっかけは以下のようなものがあります。

・喪失体験、透析治療に伴う身体的苦痛
・日常生活における制限・社会的役割の変動
・家族に対する負担感
・身近な人の訃報

日常生活の制限、透析治療に対するストレス、将来の不安感など透析をしている患者さんにはたくさんのストレス・不安が襲い掛かります。鬱病になると「食欲不振、ADLの低下、透析拒否」などの問題が発生します。また、最悪自殺する恐れもあります。

鬱病に対して、私たち透析スタッフは何をしてあげられることがあるのでしょうか?透析室のスタッフに求められるものは、『鬱病の早期発見』そして、『精神療法』です。

高齢者の鬱病の特徴としては、著しい抑うつ気分、生きがいや興味の消失、漠然とした不安感を訴える場合が多いです。透析日のやり取りのなかで、患者さんの表情、しぐさ、声の調子などをよく観察して患者の変化に気づくようにしましょう。また、患者さんから弱音や不安感など訴えることもあります。そのような場合は、患者の気持ちをできるだけ理解するように耳を傾けて、暖かく接していくことが大切です。

患者自身に読書ができる元気があるなら、認知行動療法もお勧めです。いやな気分よ、さようなら コンパクト版など、自分でできる治療方法もあります。

合併症

高齢化に伴い、全身のいたるところに問題が発生しやすくなります。主に以下のような問題が生じやすくなります。

視力・聴力・味覚の低下
循環器系・・・動脈硬化、狭心症、不整脈
運動機能の低下・・・関節症、骨塩量の低下
免疫力の低下・・・感染症、悪性腫瘍
自律神経障害・・・起立性低血圧、透析低血圧
消化器・・・嚥下障害、便秘
精神神経障害・・・認知症、抑うつ

透析患者にABIなどを実施すると、実年齢より+20歳くらい高い年齢者程の動脈硬化が進行していることがほとんどです。動脈硬化により、心臓・脳血管系などの疾患が発症するリスクが非常に高いです。

また、固くなった血管では、血圧の調整能力も低下しており透析中の血圧管理も非常に難しくなります。その他、運動機能の低下による転倒・骨折、免疫力低下による感染症・MRSAなどの感染、嚥下障害による誤嚥性肺炎などなど、多くのリスクを抱えてていることを頭に置いておかなければなりません。もし、透析中に急変したらどうするか?など日ごろからシュミレーションしたり、マニュアル化をしておくと緊急時に冷静に対応することができます。

易感染

高齢透析患者は、免疫力が低下しています。また、透析室というワンフロアで多人数の患者が同時治療するという環境は、感染が広がるリスクが高い環境と言えます。透析患者及び、スタッフが注意しなければならない感染症は以下のものがあります。

呼吸器感染症・・・インフルエンザ、誤嚥性肺炎、結核など
消化管感染症・・・ノロウイルス・タロウイルス、胃腸障害、口腔内病変
腎・尿路感染症
皮膚感染症・・・白癬など
バスキュラーアクセス感染
肝炎・HIV・・・HCV、HBV、HIV

透析室では、さまざまな感染症のリスクがあります。これらを予防する基本は、『スタンダードプリコーション』を適切に実施することです。

人が振れるものはすべて清掃します。そして、患者さんと接触したらそのつどアルコールなどで手指を消毒します。状況に応じて、ガウン・ゴーグルの着用も望ましいです。また、入室時は、体温測定などを実施して感染の兆候を見逃さないことが大切です。

最後に

高齢の透析患者・重症患者が増加してますます。安全で質の良い透析を実施するには、今後ますます透析室スタッフの専門性や知識が求められます。

 

参考文献・引用)

透析ケア2012.No12,18-51