透析患者の「脳機能障害」について

透析患者の脳を守るには

はじめに

透析患者の合併症としての脳機能障害があります。脳機能障害について、透析関連の書籍に搭載されていることは少ないですが、長期間透析されている患者の場合「脳血流異常、脳萎縮、認知機能障害」を発症するリスクが高いようです。それぞれの障害について簡潔に紹介します。

透析患者の脳の特徴

・透析患者の脳血流異常

ポジトロンCTによる検査により透析患者では、脳血流量および脳酸素代謝率が低いことが報告されています。特に前頭葉においてその傾向が顕著です。通常、貧血状態になるとそれを補うために脳の血流量が増加します。しかし、透析患者の場合は、その代償反応に障害があり、貧血状態になっても血流量の増加度が少ないようです。

原因としては、「慢性的な尿毒症症状による脳神経細胞の代謝障害、動脈硬化による血流障害、自律神経障害による循環制御機構の異常」などが考えられています。

血液透析も、脳血流量を減少させる要因となります。「除水による循環血漿量の減少、除水による血液粘度の上昇、血圧低下」これらにより、さらに脳血流量をが低下します。

脳血流量の低下は、起立性低血圧、意識消失、脳梗塞の発症など急性の障害から、長期的には、前頭葉萎縮させ認知症の発症を促進すると報告されています。

透析中による脳血流量低下による脳障害を抑制するには、透析間の体重増加量を少なくして、除水量を減らす。さらに、血圧が下がりやすい患者の場合は、ドプス、メトリジン、リズミックなどの昇圧剤を利用します。特に、ドプスは脳血流量低下抑制効果が高いようです。

DW設定に関しては、心臓の負荷を軽減させて心不全などのリスクを軽減するためには、ぎりぎりまでしぼったDWが有効です。ただ、そうすると透析中に血圧が下がりやすくなります。脳機能の保護を考えてちょうどいいDWに設定したいところです。

透析医学会の統計でも透析中に、30mmHg以上血圧低下がある患者は、死亡リスクが上がると報告しています。それの理由も脳機能障害のリスクがあるからかもしれませんね。透析患者の中には、毎回ものすごい体重増加で来院して、透析中に必ず急激な血圧低下を繰り返している人も多いです。

「心臓に負担がかかる、透析中にしんどい」ということだけでなく、脳に不可逆的な障害を受けているということも頭に入れておいたほうがいいです。

・透析患者の脳萎縮

慢性腎臓病患者および透析患者の多くは、脳萎縮が進行していると報告されています。

野田は、透析患者、腎機能障害のない本態性高血圧症例、健常者の3群でCT上の側脳室拡大度(Bicaud CVI)を比較し、透析患者の側脳室拡大の発症時期は、健常者より20年、本態性高血圧症例よりも10年早く、9年後の再検で、側脳室拡大の進行速度は健常者より有意に速く、脳萎縮の新高速だが早いことを明らかにした。(※1)

鶴屋は、55例の透析患者と35例の健常者に対してMRI画像より脳側室と脳実質の面積比(VBR)で脳萎縮を評価し、30~60歳代の10歳ごとのどの年代においても有意に透析患者のVBRが大きかったことを報告した。(※2)

補足

脳側室とは?

左右大脳半球の内部の脳脊髄液で満たされた空間。老化による脳萎縮で拡大する。

脳側室

http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100015/032000006/?SS=imgview&FD=723670982より改変して引用

このような報告を見ると、透析患者の多くは脳萎縮が進行していると疑われます。

透析患者の脳萎縮亢進の機序は、まだまだ十分に解明されていませんがSavazziによると「脂質代謝異常、高血圧症、二次性副甲状腺機能亢進症などによる脳動脈硬化症」、「貧血、心不全による低酸素症や脳血流量の変化」「尿毒症物質による神経毒性」「透析による脳浮腫」これらが原因で脳萎縮が亢進すると考えられています。

・透析患者の認知機能障害

透析患者は脳血流量の低下、脳萎縮が行進していることもあり認知機能障害の罹患率も高いです。ミニメンタルステート検査(MMSE)による検討では30~60%と、同年代健常者の約2倍です。Murrayらによる、55歳以上のHD患者338例を認知機能調査したところ、正常者は12.7%、その他は軽度~重度障害でした。

認知機能障害の原因は、前述した「脳血流量低下にようる脳萎縮」の他にも、血管因子(高血圧、糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、心房細動、喫煙)、非血管因子(貧血、甲状腺機能亢進症、薬剤、睡眠障害、鬱病など)があります。

透析量と認知機能障害の関係については、「夜間連日透析法、腎移植により認知機能が改善した」という報告があります。

まとめ

慢性腎不全による病態、血液透析が脳血流量低下、脳萎縮を促進して、認知機能障害に関与しています。透析スタッフとしてできることは、透析患者の脳機能障害の危険因子をできるだけ是正してあげることです。透析中の血圧低下を予防したり、食事・飲水指導をしたり、適正なDWに設定することなど、一人ひとりの患者さんの容態の変化を日々観察しながら治療していくことが大切です。

 

(参考文献・引用)

臨床透析2013;9:vol29

※1)野田恒彦:人工透析中の腎疾患患者に見られる神経障害―脳萎縮を中心として.新潟医会誌 1980;94:825-841

※2)鶴屋和彦:透析患者の脳病態生理学(2)脳萎縮と認知機能障害.臨床透析2013 9VOL.29NO.10:1433-1441