腹水濃縮再静注療法(CART)の基礎知識

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CARTとはCell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapyの略称で、日本語で腹水濃縮再静注療法といいます。臨床工学技士が勤務している総合病院では度々施行される治療方法です。今回は、CARTの基礎知識ととCART施行のながれについて簡単に紹介します。

腹水が溜まる原因

腹水が溜まる代表的な疾患として、肝硬変・肝臓癌があげられます。肝臓の働きの一つにアルブミンなどの蛋白質を造る働きがあります。そして、アルブミンは血管内の浸透圧を保つ働きがあります。簡単にいえば、アルブミンは血管内に水分を引き込む働きがあります。その為、肝機能が低下して、血液中のアルブミン濃度が低下すると、血管から水分が漏れ出てしまい全身の浮腫や腹水が溜まる原因になります。

その他に、肝硬変では門脈圧の上昇も腹水が溜まる大きな原因になります。門脈とは、胃や腸などから吸収された栄養素を肝臓に運ぶ血管です。肝硬変になると肝臓が硬くなると門脈の流れがとどこってしまい、門脈内の圧力が上昇して、門脈からも水分が血管外に漏れ出してしまいます。

 

CARTとは

腹水濃縮再静注療法とは、肝硬変や末期癌などにより腹腔に水が溜まった患者に対する治療です。上記に説明したとおり、肝硬変や癌が進行すると、腹腔に大量の腹水が溜まります。そのままほっておくと、4~5Lと大量の腹水が溜まりお腹がパンパンに膨れます。腹水は、臓器や肺を圧迫し、息苦しくさせ、便秘や食欲不振の原因となります。

そこで、腹部に針を刺して腹水を抜く治療が行われます。従来は、抜いた腹水はそのまま破棄されていました。

しかし、腹水の中には、アルブミンなど有益な栄養素が多量に含まれています。

CARTでは、抜いた腹水をバックに貯めて、それを、血液浄化装置により、循環させて、1次フィルタにより腹水の中のウイルスやバイ菌などを濾過して、さらに2次フィルタにより腹水を除水して、奇麗で濃縮した腹水を抽出します。

濾過されて濃縮された腹水は、再び患者の静脈から輸液ポンプなどを利用して投与されます。これらの一連の治療をCARTといいます。

 

CARTの血液浄化回路

CARTの回路の流れは、以下のようになります。CHDFやDFPPなどと比較すると単純な回路構成でありプライミングは比較的容易と思われます。

CART回路(旭化成メディカルHPより引用(http://www.asahi-kasei.co.jp/medical/)

代表的な回路構成は上記のようになります。腹水の流れに従って順番に説明します。まずは、1次フィルタ(腹水濾過器)内で腹水を濾過します。ここでは、ウイルスやがん細胞を除去します。

一次フィルタで濾過された腹水は、さらに2次フィルタ(腹水濃縮器)にて、濃縮(除水)します。濃縮された腹水は新しいバックに貯められます。

 

CARTの材料費と保険点数

手技量

3470点(平成26年時点)

材料価格(償還価格)
「腹水濾過器、濃縮再静注用濃縮器(回路も含む)」セットで64100円
(平成26年時点)

施行回数

2週間に1度まで施行可能です。

 

CARTの流れ

①まずは、患者の腹水を抜き取ります。消化器内科の医師が患者の腹腔にエラスタ針にて穿刺して腹水を抜いてバックに貯めます。急激に腹水を抜くと、循環動態に悪影響を与える為1時間に1~2L以内の速度で抜き取ります。
②臨床工学技士は、腹水濃縮用の血液浄化回路を組立てプライミングします。
③腹水が抜かれて、バックに貯められたものは臨床工学技士に届けられます。一般的には、腹水は3L程度抜かれます。
④臨床工学技士は、腹水が入ったバックをプライミングした回路に接続して、医師の指示された濃縮率になるように血液浄化装置の設定をします。10倍程度に濃縮するように指示されることが多いです。(10倍の濃縮で血漿蛋白と同程度の濃度になると言われている)
⑤これらを濾過して10倍に濃縮すると、最終的には1/10の量の濃い腹水が出来上がります。
⑥濃縮された腹水は、再び病棟に返却され、患者の静脈に点滴します。静脈に返す時は、100ml/hの速度でゆっくり輸液します。
⑦これらの一連の治療を行うことにより診療報酬を得ることができます。

 

CARTの効果

従来は、腹水が溜まっても抜いて捨てるだけであった為、血液中のアルブミン濃度が低下することにより血漿浸透圧が低下して、腹水を抜いても再び腹水が溜まってしまうため、腹水が溜まっても容易に腹水を抜くことができませんでした。

CARTでは、抜いた腹水を浄化・濃縮して静脈注射することにより、血液中のアルブミン濃度を上昇させることができ、血管内の浸透圧を上昇させ、腹水の溜まる速度を遅延させることができます。CARTは、難治性腹水の患者に対する対症療法ですが、終末期での患者のQOLに貢献できる優れた方法です。CARTによりる延命効果はさまざまな、学会や論文により発表され認められています。

腹水濃縮の治療は、専用の装置1台と材料さえそろえることができれば比較的簡単に施行することができます。終末期医療の現場では、積極的に導入してもらえれたらと思います。