透析患者の運動療法について(腎臓リハビリテーションの基礎)

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透析患者の運動耐容能の低下

透析患者は、心不全・高血圧などさまざまな合併症や重複障害をかかえている為、運動量や活動量が低下します。健常者と比較して65%の活動量と言われています。その為、運動耐容能が低下することが問題となっています

ちなみに運動耐容能とは、全身を使う持久的な運動にどれくらい耐えられるかという限界のことです。運動耐容能検査では自転車のペダルをこぐ運動をしながら、心電図・血圧・呼気ガスを測定して肺・心臓・全身の筋肉の機能を評価します。

この運動耐容能が透析患者の場合、COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者や心不全患者とと同等のレベルまで低下しているそうです。

 

透析患者の身体活動量と死亡リスクの関係

運動耐容能が低いと死亡リスクが上がる。生命予後が悪化するという報告があります。

O’Hareによる2837人の透析患者に対する身体活動と死亡率に対する研究によれば、身体活動の少ない患者はそうでない患者と比較して、1年の死亡リスクが1.62倍と報告されています。

日本では、Matsuzawaにより、歩行可能な透析患者202名に加速度付き歩数計を装着して身体活動量と生命予後の関連を調べた研究があります。この研究では、1日の身体活動時間が50分以上の患者(A)と、50分未満の患者(B)の生命予後を比較しています。グラフを見る限り、明らかに身体活動量が多い患者の死亡率が低いのが分かります。

身体活動量と生命予後(文献1より引用・改変)

上記の研究により、身体活動が少ないと死亡リスクが上昇するということが分かりました。そこで、身体活動が少ない患者に対して、身体活動量を増加させることが推奨されています。

 

腎臓リハビリとは?

腎臓リハビリテーションとは、腎臓病患者や透析患者に対して「運動療法、食事療法、薬物療法、教育、心理サポートなど」を行い、身体・精神的影響を軽減させて生命予後を良くするための包括的なケアです。

透析施設で行われる腎臓リハでは、運動療法が中心となります。透析患者に対する運動療法は、生命予後の改善だけでなく以下のような様々な効果が証明されています。

●腎不全透析患者における運動療法の効果(文献2より改変)
最大酸素摂取量の増加
左心室収縮能の亢進(安静時・運動時)
心臓副交感神経の活性化
PEW(栄養障害)の改善
貧血の改善
睡眠の質の改善
不安・うつ・QOLの改善
ADL(日常生活動作)の改善
前腕静脈サイズの増加
透析効率の改善
死亡率の低下

腎臓リハビリの方法

透析患者の運動療法の大切さがわかったところで、ここからは実際にどうのように運動をしていくのかについて紹介します。

運動内容と頻度について

透析患者の場合は、透析直後は脱水状態で血圧低下の恐れがあるため非透析日、もしくは透析開始から2時間以内に行うことが推奨されています。非透析日の運動に関してはアメリカスポーツ医学会(ACMS)の「CKD患者のための運動勧告」を参考にするといいでしょう。それによると、初期の運動強度は、軽度強度(酸素摂取予備能の40%未満)から中等度強度(酸素摂取予備能の40~60%)として、患者の状態をみながら徐々に上げていくべきとされています。

CKD患者に推奨される運動処方(文献3より)
頻度 有酸素運動:3~5回/週
レジスタンス運動:2~3日/週r
強度 中等度強度の有酸素運動(すなわち酸素摂取予備能の40kら60%、ボルグ指数d<RPE>6~20点<15点法>の11~13点)
レジスタンス運動は1-RMの60~75%
時間 有酸素運動:持続的な有酸素運動で20~60分/日、しかしこの時間が耐えられないのであれば、レジスタンストレーニング:10~15回反復で1セット。患者の耐用能と時間に応じて、何セット行ってもよい。
種類 ウォーキングやサイクリングのうような有酸素運動
レジスタンス運動の為には、マシーンあるいはフリーウエイトを使用する。大筋群を動かすための8~10種類の異なる運動を選ぶ
特別な考慮 血液透析を受けている患者
・トレーニングは透析直後に行うべきではないが、透析をしない日には実施してもよい。もしもトレーニングが透析中に行われるのであれば、低血圧反応を避けるために、その運動は治療の前半中に試みられるべきである。
・心拍数は運動強度の指標としての信頼性は低いので、RPEを使用する。
・患者の動静脈吻合部に直接体重をかけない限りは、動静脈吻合部のある腕で運動を行う。腹膜透析を受けている患者
・持続携行式腹膜透析中の患者は、腹腔内に透析液があるうちに運動を試みるかもしれないが、この結果が思わしくない場合には、患者は体液を除去することが進められる。

非透析日の運動

非透析日に週3~5回、1回に20~60分の歩行やエルゴメータなどの中強度(最大の60%未満)、あるいはボルグ指数で11(楽である)~13(ややきつい)での有酸素運動を中心となります。通常は運動施設か自宅で行います。

安定したCKD患者では、レジスタンス運動も健康維持のために重要とされています。運動療法は非透析日に行うか、透析日の透析前に行います。透析直後は脱水状態にあり、低血圧を助長するため、行うべきでありません。

(メディカ出版 透析ケア2015AprilVol.21No4 81Pより)

※ 補足  レジスタンス運動・・・筋肉に抵抗をかける動作を繰り返し行う運動

透析中の運動療法

透析中の運動療法も有効です。透析中の運動は、タンパク同化が促進され、リンなどの老廃物の除去効率が高まるということが報告されています。また、透析中は暇という患者さんも多いです。透析中の暇つぶしにもいいと思います。

透析中に運動を行う場合は、低血圧を避けるために透析の前半に行うことが推奨されています。運動内容は、ベッドに寝た状態で行えるエルゴメータやゴムバンドやボールを用いたレジスタンス運動が推奨されています。エルゴメータ以外にも、ジムメイトなど類似商品も販売されています。

運動の注意点

安全に運動を行うには、それぞれの患者さんに対して、問診・診察・検査をして運動によるリスクを評価する必要があります。検査としては。「運動負荷試験」を行うことが望ましいとされています。トレッドミル、自転車エルゴメータのプロトコールなどです。また、可能性は低いですが、運動負荷試験中に何らかの発作が発生する可能性もありますので事前にインフォームド・コンセントをして、同意書なども書いてもらう必要があります。

運動の禁忌

重度の心不全や肥満がある場合は、運動が禁忌となります。詳細は、心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインに搭載されていましたので以下に搭載します。

心不全の運動療法の禁忌
Ⅰ.絶対的禁忌
  1. 過去1週間以内における心不全の自覚症状(呼吸困難、易疲労性など)の増悪
  2. 不安定狭心症まてゃ閾値の低い(平地ゆっくり歩行[2METs]で誘発される心筋虚血)
  3. 手術適応ある重傷弁膜症、とくに大動脈弁狭窄症
  4. 重症の左室流出路狭窄(閉塞性肥大型心筋症)
  5. 未治療の運動誘発性重症不整脈(心室細動、持続性心室頻脈)
  6. 活動性の心筋炎
  7. 急性全身性疾患または発熱
  8. 運動療法が禁忌となるその他の疾患(中等度以上の大動脈瘤、重症高血圧、血栓性静脈炎、2週間以内の塞栓症、重篤な他臓器障害など)
Ⅱ.相対的禁忌
  1. NYHA Ⅳ度または静注強心薬投与中の心不全
  2. 過去1週間以内に体重が2kg以上増加した心不全
  3. 運動により収縮期血圧が低下する例
  4. 中等症の左室流出路狭窄
  5. 運動誘発性の中等症不整脈(非持続性心室頻脈、頻脈性心房細動など)
  6. 高度房室ブロック
  7. 運動による時間症状の悪化(疲労、めまい、発汗多量、呼吸困難など)
Ⅲ.禁忌とならないもの
  1. 高齢
  2. 左室駆出率低下
  3. 補助人工心臓(LVAS)装着中の心不全
  4. 埋め込み型除細動器(ICD)装着例

心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改定版)69Pより)

生活習慣病に対する運動療法の適応と禁忌
疾患 適応 条件付き適応 禁忌
高血圧 140~159/
90~94mmHg
・160~179/95~99mmHg
または治療中かつ禁忌の値ではない
・男性40歳、女性50歳以上合はできるだけ運動負荷試験を行う。運動負荷試験ができない場合は、ウォーキング程度の処方とする。
・180/100mmHg以上
・胸部エックス線でCTR55%以上
・心電図で重症不整脈、虚血性変化が認められるもの(運動負荷試験で安全性が確認された場合を除く)
・眼底でⅡb以上の高血圧性変化がある。
・尿蛋白100mg/ dl以上
糖尿病 空腹時血糖
110~139mg/dl
・空腹時血糖140~249mg/dl
または治療中かつ禁忌の値ではない。
・男性40歳、女性50歳以上はできるだけ運動負荷試験を行う。運動負荷試験ができない場合は、ウォーキング程度の処方とする。
・空腹時血糖250mg/dl以上
・尿ケトン体(+)
・糖尿病網膜症(+)
脂質異常症 TC:220~249mg/dl
または
TG:150~299㎎/dl
・TC:250㎎/dl以上またはTG:300㎎/dl、または治療中
・男性40歳、女性50歳以上はできるだけ運動負荷試験を行う。運動負荷試験ができない場合は、ウォーキング程度の処方とする。
肥満 BMI:24.0~29.9 ・BMI:24.0~29.9かつ下肢の関節障害整形外科的精査と運動制限 ・BMI:30以上

 

まとめ

透析患者の高齢化により、透析室内でも自力で歩行するのが難しいという患者さんが増えてきています。歩行できなくなる原因としては、やはり透析患者さんの活動量・運動量が少ないため下肢の筋肉が弱くなっている為です。各施設で、透析リハを導入して少しでも運動の機会を増やすことにより健康寿命を延ばすことができると思います。

(参考文献・引用)

文献1)Matuzawa R,et al:Habiual physical activity measured by accelerometer and survival in maintenance hemodialysis patients.Clin J Am Soc Nephrol7:2010-2016,2012
文献2)上月正博.腎臓リハビリテーション.東京,医歯薬出版,2012,508P
文献3)American College of Sports Medicine.ACSM’ sGuidelines for Exercise Testing and Prescription. Eighth Edition.Philadelphia,Lippincott Williams&Wilkins,2009,400P
総合リハビリテーションVol.43No.5MAY2015
メディカ出版 透析ケア2015AprilVol.21No4 78-87P